「イネ完全長cDNAによる有用形質高速探索」とは
遺伝子とcDNA
- 遺伝子を研究するわけ。
遺伝子は、ヒトで約30,000、イネで約40,000、ナズナ(シロイヌナズナ)で約28,000あると言われています。
これらの遺伝子から動植物の体を形作るタンパク質や、酵素などの化学物質を作る機能を持ったタンパク質、受容体などの化学物質を認識する機能を持ったタンパク質ができます。そのため、遺伝子は生命の「設計図」に例えられます。
遺伝子からどんな機能を持ったタンパク質が作り出され、その結果、どんな生命現象が起こるかを理解することは、生命を理解することにつながります。
遺伝子が少しずつ違うことによって、生命は様々な特徴を獲得しています。イネとナズナでも同じような働きをする遺伝子や独自の働きをする遺伝子があります。同じ働きをする遺伝子はエネルギーを生み出したり子孫を残したりするための基本的な生命活動に必要なものが多く、独自の働きをする遺伝子はその生命を特徴付けるものであるため、これらの両方が大事です。
- 生物は、4種類のDNAという化学物質(文字)で遺伝子(設計図)を記憶して(書いて)います。
DNAは、アデニン(A)、チミン(T)、シトシン(C)、グアニン(G)の4種類があり、これらを並べて(平均2千個という説があります)様々な意味を持つ設計図(遺伝子)を書いています。
設計図には、タンパク質を形作る情報のほか、タンパク質を作るタイミングや、場合によっては一部分だけ異なるタンパク質を作るための情報も含まれています。
こうした設計図が何千個もつながっています(つなげるための部分には意味を持たないところもあります)。さらに、ジッパーのように「対」になっています(DNAの「二重らせん構造」といいます)。この「対」を「染色体」と呼び、がヒトでは23対、イネでは12対、ナズナ(シロイヌナズナの場合)では5対あります。これら染色体の一揃えを「ゲノム」と呼んでいます。
- DNAからタンパク質が作られるまで。
遺伝子が格納されている場所(核)とタンパク質が作られる場所(細胞質)が違うので、RNAというDNAに似た化学物質に写し取られて(「転写」といいます)、タンパク質が作られる場所に情報が運ばれます。
タンパク質が作られる場所(細胞質)に運ばれたメッセンジャーRNAの情報を元に、 20種類のアミノ酸と呼ばれる化学物質からタンパク質が作られます(「翻訳」といいます)。
- cDNA (complementary DNA)は、直接的にタンパク質を作るための情報を持つ安定な化学物質です。
メッセンジャーRNAは、タンパク質と同じ情報を持っています。
遺伝子に記憶されたタンパク質を作るには、メッセンジャーRNAを調べればよいということになります。
しかし、メッセンジャーRNAは非常に壊れやすいです。
DNAは壊れにくいので、メッセンジャーRNAをDNAで作り直します(これを「逆転写」といいます)。
これがcDNAです。
ナズナを使ってイネを理解する
- ナズナを使うわけ。
- イネとナズナで同じもの、違うもの
同じ働きをする遺伝子はもちろん重要ですが、イネ独特の遺伝子もナズナに導入した結果、何らかの働きをすれば、「特定の働きをもつ遺伝子」として遺伝子特許や論文発表などにより、日本の資産/研究成果として世界に主張することができます。
FOX hunting systemって?
- 個々のcDNAを同量ずつにする技術
cDNAはmRNAから作りますが、mRNAはあるものは大量に、あるものはほんの少しだけしか作られないということがあります。なので、すべてのmRNAが混ざったままcDNAに作り変えてシロイヌナズナに導入しても、同じ変化を起こすものがたくさん出来てしまったり、調べたいものが少ししか(あるいは全く)見つからないかもしれません。なので、それぞれのcDNAをまず一種類ずつに分けて、それぞれ同量になるよう増やして使います(同時に、シロイヌナズナに導入するための仕掛けを施しておきます)。同量になるように調整したcDNAを全部混ぜ合わせたものをシロイヌナズナに導入します。なぜ分けたものをまた混ぜ合わせてしまうのかは、次で説明します。
- シロイヌナズナにcDNAを導入する技術
cDNAをシロイヌナズナに導入する方法はいろいろありますが、このシステムではアグロバクテリウムと呼ばれる微生物を利用します。この微生物を利用することにより、大変効率よくcDNAを導入することができます。まずは、混ぜ合わせたcDNAとアグロバクテリウムを一緒にして電気ショックを与えると、cDNAがアグロバクテリウムに取り込まれます。こうして、様々な「cDNAを持つアグロバクテリウム」が出来上がります。これらのアグロバクテリウムをシロイヌナズナに感染させると、様々なcDNAがシロイヌナズナのいろいろな場所の細胞に取り込まれます。これらの細胞が花になり種になったときに、一つのcDNAが取り込まれた種が、一つのシロイヌナズナから平均100個も取れます。100個も取れてしまうので、cDNAを混ぜてしまうのです。cDNAを調べるのは後で簡単にできますから。数万種類のcDNAを一つずつ導入するより、100分の1のスペースと労力で済むからです。数万個のシロイヌナズナを育てるより、数万種類のcDNAを試験管で混ぜる方が格段に楽だということです。
- 変化を調べる
~様々な方法でcDNAを導入したシロイヌナズナの変化を調べます~
- 導入したcDNAを調べる技術
変化のあったシロイヌナズナに導入されているcDNAを調べます。導入したcDNAには、cDNAから常に、大量にタンパク質を作るような仕掛けも施されています。この仕掛けの部分を手がかりにして、導入したcDNAがどのようなものであったのか、すぐに調べることが出来ます。
この研究を世の中に役立てる
ナズナで働きを調べた遺伝子をイネやナス、トマトなどにも導入して、農作物での働きも調べています。農作物で働くことが分かれば、農作物を丈夫にたくさん作るためにはどうしたらいいかということが分かってきます。それだけでなく、例えば薬の原料などの役に立つ化学物質を効率よく植物に作らせることができるようになります。「イネの遺伝子の働きを日本の資産/研究成果にする」ためだけでなく、この研究が広く世の中の役に立つことを願い日々努力しています。